Palatino系4フォントの合字(リガチャ)の違い

Macに入っているPalatinoとWindowsに入っているPalatino Linotype、ほとんど同じものかと思っていたら、合字(リガチャ)が違う。

TeXだとさらに、PagellaとPalladioという互換フォントも入ってきて、合字はやはり違う(Pagellaは「ff」がリガチャに、Palladioはリガチャなし)。参考:Can ligatures be enabled for Palatino and pdflatex?

(Appleの)PalatinoとPalatino Linotype、Pagella、Palladioを、区別せずに「Palatino」と呼んではいけないということか。

4568503647ちなみに、小林章『欧文書体 2』(美術出版社, 2008)によると、Palatinoの作者であるHermann Zapfさんは、本文はPalatinoでは組まないらしい。

もともとPalatinoは見出し用としてデザインした書体だから、私は自分の本を書いたときには、本文はいつもAldus(アルダス)で組むことにしている。(p.96)

じょうずなワニのつかまえ方(21世紀版)

4079242603ダイヤグラムグループ『じょうずなワニのつかまえ方』(主婦の友社, 1986)は雑学集なのですが、雑学ごとに書体が変わっているため、書体を楽しむのにも使えます。どちらかといえば、雑学集としてよりも、書体見本帳として買われることが多かったのではないでしょうか。

1986年版では写植の書体が使われていましたが、最近出版された21世紀版(リバイバル版)では、モリサワパスポートのフォントが使われています。写植が好きだった人にはさみしいことかもしれません。

Amazonでは買えないみたいなので、丸善でつかまえてきたのですが、モリサワのサイトでも読めることを後で知りました(でも、内容がちょっと違うみたいですねえ)。

雑学:「じょうずなワニのつかまえ方」はウェブでも読める。

タイポグラフィ・ハンドブック

4327377325小泉 均『タイポグラフィ・ハンドブック』(研究社, 2012)第2刷をいただきました。

内容についてちょっとコメントしただけなのに名前を載せていただき、恐縮です。

タイポグラフィの本はけっこう持っていますが、これだけ多くの話題を1冊に詰め込んだものは他にありません。話題が多いだけあって、事実認識が私と違うと ころもいくつかありますが、一部二色刷の組版はとても美しく、量と質の両面で、コストパフォーマンスの高い本になっていると思います。日本語に訳されていない副題もいいですね。タイトルの通りハンドブックとして使うのはもちろん、読み物としても楽しめます。

https://www.facebook.com/handbookoftypography

Zapf 展「ヘルマン・ツァップ&グドルン・ツァップ カリグラフィーの世界」

震災の影響で延期されていた Zapf 展が、ギャラリー ル・ベインで開催されている。

Zapf 展

Herman Zapf さんは Widows にも Mac にも入っているエレガントなフォント Palatino (この記事の欧文フォント)の作者。Windows には入っていないが、Mac には標準で入っている Optima や Zapfino も Zapf さんの作品。『コンピュータの数学 』『数学ガール 』シリーズの数式部分で使われている AMS Euler も。

0895792524カリグラファーとしても有名。Knuth 先生の 3:16 では、プロジェクトにとって最も重要な聖句である John 3:16 とカバーを手がけている。不幸なことに、John 3:16 の Knuth 先生による英訳には間違いがあり、それをもとに作成され 3:16 に収録された Zapf さんのカリグラフィーも不満足なものだったのだが、最終的には幸運なことに、修正版が Knuth 先生のウェブサイトで公開されている(PDF)。(このあたりの話は『コンピュータ科学者がめったに語らないこと』に詳しい。)

このように、もはや伝説とも言える Zapf さんの直筆作品や複製品、フォント制作資料、金属活字などが、Zapf 展では 50 点ほど展示されている。会場では、図録のほかに、Alphabet Stories by Herman Zapf や Linotype の見本帳(紙と CD-ROM)も購入できる。

9/25 まで。

追記:「Zapf 展」のカタログ、海外向けに発売

「グループルビしか使っていない」のはダメ

文字の組み方―組版/見てわかる新常識 (単行本)大熊肇『文字の組み方』(誠文堂新光社, 2010)に、間違ったルビの使い方として「グループルビしか使っていない」例がしょうかいされている。図の例文が説明を兼ねるという、ちょっとおもしろい作りの本なのだが、次のようなルビの振り方は間違いだという。

気質きしつ(グループルビ)(p. 94)

ルビは次のように振るのが正しい。

  • しつ(モノルビあるいは対字ルビ)
  • 気質かたぎ(グループルビあるいは対語ルビ)

モノルビの場合でも、難しい字だけでなく、語全体にルビを振るものらしい。

さて、HTMLでは、ルビは「<ruby>気質<rt>かたぎ</rt></ruby>」という具合に、ruby要素とrt要素を使って表現するのだが、これではルビのレンダリングに対応していないウェブブラウザでは「気質かたぎ」と表示されてなんのことかわからなくなってしまうため、rp要素を補助的に用いて「<ruby>気質<rp>(</rp><rt>かたぎ</rt><rp>)</rp></ruby>」という具合に表現する。こうすると、ルビが括弧で囲まれるようになる。

手元のブラウザでは、IE 8とChromeではルビをルビとして表示できるが、OperaとSafari, Firefoxではできない(Firefoxはアドオン「XHTMLルビサポート」を入れればルビをルビとして表示できるようになるが、動作がかなり重くなるため、『ドグラ・マグラ』を読むのはやめておいた方がいい)。

ルビをルビとして表示できない環境では、「気(き)質(しつ)」よりも「気質(きしつ)」のほうが読みやすいだろう。文字を組むと言っても、従来の原則をそのまま受け入れてはいけない場面がウェブにはたくさんある気がする。

『文字の組み方』訂正箇所(参考文献に関する「本当に丸写しかどうかは未確認」という追記は、ちょっと物議を醸した結果らしい)

4309462340ルビと言えば、『フィネガンズ・ウェイク 1』に寄せられた大江健三郎さんの序文に、次のようなものがあった。

読み手はまず当の漢字を見ているのであって、少なくとも二種の表記を同時的に—多声的にといいたいほどだ—視覚的にも聴覚的にも受け取っているのだ。たとえば、大江健三郎としをとつてもこどもというような、あるいは大江健三郎チヤイルデイツシユというような……(p.13)

柳瀬尚紀『日本語は天才である』(新潮社, 2009)の第5章「かん字のよこにはひらがなを!」でも、この話は紹介されている。