PS3に残されたわずかな希望

ソニー製品といえば、買ってからちょうど1年後に発動する高性能タイマー、通称ソニータイマーで有名でしたが、最近では、「買ってからしばらくすると、主要機能を省いたシンプル構成にチェンジする」という、やはり他のメーカーには真似のできない仕掛けで有名になりつつあります。

この仕掛けはなかなかよくできています。たとえばゲーム機を売る場合、最初はゲーム以外の機能も持った製品を出荷します。そうすることによって、ゲームをしない一部の層にも製品が売れます。しばらくしてから、その付加機能を、バーン、無効にします。するとどうでしょう。人間は、高い金を払って買ったものはなんとかして元を取ろうとしますから、残された機能つまりゲームで遊ぶようになるのです。

付加機能を付けて売る分、最初は少し赤字になるかもしれませんが、ゲームをしない人たちに売りつけた分から後で得られる利益を考えて、全体としてプラスになるのなら、この戦略はうまくいくのです。

ソニーはゲーム機PS3でこの戦略を試しているようです。2つの実験が平行して行われています。一つは、「他のシステムのインストール」機能、もう一つはテレビ録画機能です。現時点では「他のシステムのインストール」機能が無効になっていて、この機能を目当てにPS3を買ったユーザが、ゲームに流れているところです(たぶん)。テレビ録画機能はまだ十分には普及していないので、無効になるのはしばらく先のことでしょう。

残念なことに、せっかくの壮大な実験を、邪魔する輩がいるようです。この動画では、せっかく無効にした「他のシステムのインストール」機能が復活してしまっています。

ただ、この動画の投稿者がソニーの邪魔をしていると断言するわけにはいきません。なんでも、この技術を利用すれば「他のシステムのインストール」機能が使えないはずの型番でも、この機能が使えるようになるそうです。これは、「購入後もソフトウェアアップデートで機能が増えていく」という、PS3の売り文句の実現をサポートしているのです。

ソニーの関係者もきっと喜んでいることでしょう。

PS3新ファームウェアでの他OS起動に成功か(CNET)

PS3 カスタムファームウェア v3.21OO 、「他のシステム」対応を復活(engadget)

「セキュリティ対策」と言えばなんでも許されると思っている人たち

2009年8月にPS3の新型が発表されたとき、旧型が持っていた「他のシステムのインストール」する機能が新型では省かたことに衝撃を受けました(当時のブログ)。初めて市場に投入された2006年からずいぶん時間が経ち、PS3の相対的な性能は低くなっていたため、PS3を計算機として利用するメリットはほとんどなくなっていましたが、「他にないアーキテクチャの計算機で遊ぶ楽しみ」が無くなるのが残念でした。しかし、SCEの吉増一氏がインタビューの中で、旧型から「他のシステムのインストール」機能が排除されることはないと言っていたので、旧型が手元に2台ある私は安心していました。

結論から言えば、あの発言はうそだったようです。

2010年4月1日に提供されるシステムソフトウェアで、新旧問わず、すべてのPS3から「他のシステムのインストール」機能は削除されます(SCEのプレスリリース)。

ダウングレードの理由は「セキュリティの脆弱性に起因する問題に対応するため」だそうです。ということは、新しいシステムソフトウェアを導入しないことは、セキュリティの脆弱性を放置することを意味します。一般的に言って、解決策が存在するにも拘わらずセキュリティの脆弱性を放置することは好ましいことではありません。企業や大学などの組織では、そのような行為が禁止されているところもあるでしょう。そうすると、対策を実施つまり新しいシステムソフトウェアを導入しなければならなくなるわけですが、PS3を計算機として利用している場合には、その対策によって製品の主目的が失われます。

「大学で計算機として買ったPS3に、セキュリティ上の脆弱性があると言われた。放置することはできないため対策を施したら、PS3は計算機として利用できなくなった」なんてことが許されるのか、私にはよくわかりません。こういうアホなことは考えたくもありません。

だから、SCEは「セキュリティ対策」なんていういいかげんな言い訳はしないでほしいものです。「特に理由はないが、当該機能は削除する」というだけなら、それを無視することに罪の意識を感じずに済んだわけですが、「セキュリティ対策のために、、当該機能は削除する」と言われても、それを受け入れるわけにはいかない私は、余計なことに心を痛めなければなりません。

そもそも、ユーザに不利益なことをする際に持ち出される「セキュリティ対策のため」という言い訳が、ほんとうにセキュリティ対策のためであることなんてあるのでしょうか。多くの人は、そんなのはただの言い訳だと思っているのではないでしょうか。そうでないのなら、具体的にどういう問題があったのか、ちゃんと説明すべきなのではないでしょうか。たいていの人は、「セキュリティ対策」と言われたら、よくわからなくても従わなければならない気分にさせられるはずです。だからといって、こんなよくわからない言い訳が使い回されていいのでしょうか。

「売った機能はそのままにセキュリティ対策を施す」というのがビジネスの基本のはずです。「売った機能を無効にしてセキュリティ対策を施す」なんてことが許されるなら、マイクロソフトはまっさきにIE 6を無効にするでしょう。少しでも責任感があるのなら、そういうことはできないはずです。

話をPS3に戻しましょう。

初代PS3には、PS2のハードウェアエミュレーションやSuper Audio CD (SACD)の再生機能などが備えられていました。初代以外のPS3からは、これらの機能は取り除かれていますが、そのことに関する納得できる理由は示されていません。戦略的な意味やコスト削減が理由なのでしょうが、真相はよくわかりません。

注意しなければならないのは、PS2のハードウェアエミュレーションやSACDの再生機能がなくなったことと、今回の「他のシステムのインストール」機能が無効になることとは、まったく違う話だということです。PS2エミュレータやSACD再生機能は、「買ったときにはあったのに、後で無効にさせられた」というようなものではありません。今回はそうなのです(そういえば、任天堂のWiiにもそんな例がありました。まったく騒がれなかった気がしますが)。

PS3上のLinuxのために努力してきた開発者はたくさんいます。たとえば、PS3に搭載された今日の基準からすれば3世代前(CUDA以前)に相当するGPUは、その詳細が公にされなかったため、あまり活用されませんでした。もう少しタイミングを見極めて、CUDA世代のものを搭載してくれていれば最高だったわけですが、それに挫けず、ビデオメモリをスワップ領域として活用するためのps3vramが開発されました。この技術は、基本的にはPS3のためだけのものであり、PS3を汎用計算機として使うことができなくなれば、ゴミ箱行きになります。

米国空軍ではPS3をスーパーコンピュータとして使用するためにPS3を2200台発注しているそうですし、米移民関税執行局サイバー犯罪センターでも、暗号化された児童ポルノデータの解読に同様のシステムを使用しているそうです(GemaSpot)。「他のシステムのインストール」機能があって初めて使える製品(CodecSys Personal)を販売していたFixstarsは、2010/4/1をもってその販売を停止するそうです(「CodecSys Personal PS3システムアップデートに関する重要なお知らせ」)。

こういう試みをしてきた人たちを裏切り、後ろ足で砂をかけるなんてことが、よくできるものです。最近、「ソニー迷走はいかにして起こったか」という記事がありましたが、迷走の要因3「傲慢」の事例をソニーはまた一つ増やしました。

SlashdotOSnewsではSCEに対して否定的なコメントが多く寄せられています。こういうところにいる人たちを敵に回したことのツケを、後でちゃんと払ってくれることを期待しています。

4798010340希望はあります。iPhoneのjailbreakなどで有名なハッカーGeorge Hotzさんが、「ハッカーはPS3のLinuxサポートを取り戻すだろう」とコメントしています(Slashdot)。もともと、そういうものだったのかもしれません。「他のOSをインストールできるようにする」などということ自体がソニーの迷走事例であり、そういうことのない「ふつうの」世界では、ハッカーたちが自由のために戦うのです。ハッカーたちの輝かしい戦歴(たとえば『ホゲゆに』を参照)に、新たな1ページが加わるのを期待しています。

SimCity、MicropolisからMegalopolisへ

追記:Ubuntuでは「sudo apt-get install micropolis」でインストール、「micropolis &」で遊べます。

追記:https://code.google.com/p/micropolis/ で開発が継続されています(Javaへの移植など)。

2008年1月10日にソースコードが公開されたシムシティあらためマイクロポリス(ライセンスはGPL)。

ソースコードはMicropolis Downloadsからダウンロードできるが、そのままではビルドできない。

Slashdotの記事についたコメントで、パッチが発表されている。このパッチは、Mac用として配布されているが、他の環境でも利用できる。(「パッチを当てたソースの最新版がhttp://git.zerfleddert.de/cgi-bin/gitweb.cgi/micropolis?a=snapshot;h=HEAD;sf=tgzにある」とパッチに書いてある。)

初代SimCityを試してみたいというだけなら、ブラウザで遊べるシムシティクラシックが簡単だが、せっかくコードが公開されたのだから、自分でビルドしてみたい。

GNU Linux (Ubuntu)の場合

Windowsの人も、仮想マシンやandLinuxを導入すれば、以下の方法が有効になる。

まず、必要なパッケージをインストールする。

sudo apt-get update
sudo apt-get install libxext-dev libxpm-dev bison
#andLinuxの場合
#sudo apt-get update
#sudo apt-get install libxext-dev libxpm-dev bison mplayer

404エラーが出て「sudo apt-get update」が失敗するときは、「/etc/apt/sources.list」に書かれているドメインを、すべて「old-releases.ubuntu.com」に変更してみる。

次に、ソースコードをダウンロードする。

wget -O micropolis.tar.gz "http://git.zerfleddert.de/cgi-bin/gitweb.cgi/micropolis?a=snapshot;h=HEAD;sf=tgz"

Mac OS Xの場合

まず、Xcodeをインストールし、音が出るように、playをPATHの通った場所に置く。

次に、ソースコードをダウンロードする。

curl -o micropolis.tar.gz "http://git.zerfleddert.de/cgi-bin/gitweb.cgi/micropolis?a=snapshot;h=HEAD;sf=tgz"

ビルド・実行

tar zxf micropolis.tar.gz
cd micropolis-HEAD-ハッシュ値
make
./Micropolis

画面サイズが大きすぎる場合には、res/whead.tclとres/wscen.tcl、res/wsplash.tclを修正する。

MicropolisからMegalopolisへ

人口が50万人を超えるとメガロポリスになる。クリックで拡大。(1920×1600より少し大きいディスプレイがあれば、マップ全体を表示したまま遊べるのかな。)

祝福メッセージを読みたい人は、実際に作ってみたらいいと思う。よく知られたテクニック(チート)は以下の通り。

  1. 道路・火力発電所は建設しない
  2. 中心部と沿岸部が重複しない地形を選ぶ
  3. 工場・港・空港はマップの端に建設する(港についてはチート)
  4. 災害はオフにする(チート)
  5. 税率は7%。人口が45万人を超えたら0%にする(チート)
  6. 消防署は一つだけ(チート)
  7. 地価が高い場所(マップの中心部と緑や公園の近く)は住宅地と商業地のみにする。警察署も不要(チート)
  8. 地価の高い場所の教会と病院は解体する(チート)
  9. 建物は、線路に1ブロックでも接していればよい(チート)
  10. 線路は繋がっていなくてもよい(チート)

THE BIG SWITCH

クラウド化する世界 (ハードカバー)邦題『クラウド化する世界』(ニコラス・G・カー著)

電力資源の確保方法の変化と計算資源のそれとを対比させた第1部「一つの機械」と、クラウド化による世界の変化への警鐘を鳴らす第2部「雲の中に住んで」からなる。(邦題は内容を矮小化しているのではないだろうか。)

さすがにこの業界にいれば、この本で初めて知るような話はないのだけれど、以下の引用部分が何を言っているのかよくわからない人は、第10章「クモの巣」だけはちゃんと読んだ方がいいと思う。

一般に行政府は、オンラインの世界を旧来の地政学的境界線に沿って分割し始めている。そればかりでなく独裁主義的政権は、インターネットはその権力にとって、当初恐れたほどの大きな脅威を引き起こすものではないと悟り始めている。(p.239)

引用の引用

「誰もが人生の途上で、数多くの質問が記載された数多くの記録書類に記入する」と、アレクサンドル・ソルジェニーツィンが小説『ガン病棟』に書いている。「一つの書類の一つの質問に対する答えは、細い糸となって、その人を個人記録管理局の地方センターに永久に結びつける。こうして、何百という糸が一人の人間から放射して、全体では何百万もの糸となるのだ。これらの糸が突然目に見えるようになれば、空全体はクモの巣のように見えるだろう・・・誰もが、この見えない糸を常に意識して、ごく自然にその糸を操る人々に対する敬意を育むのだ」(p.250)

「敵意」ではないところがさすが

国民の義務、比較憲法のすすめ

『新版 世界憲法集』は2012年4月の第2版で内容が大幅に更新されましたが、ISBNは同じなので注意してください。Amazonでも区別されていないようです。

世界憲法集 新版 (岩波文庫 白 2-1)「本当は怖い日本国憲法(404 Blog Not Found)」でも述べられているように、憲法に国民の義務を書くことには疑問があります。憲法の位置づけが曖昧になっている一因になっているのではないかと常々思っていたのですが、手元の『新版 世界憲法集』(岩波文庫, 初版, 2007)を見てみると、他の国の憲法の中にも国民の義務のようなものがけっこうありますね。

アメリカ なし
カナダ なし
ドイツ 6 子どもの保護及び教育
12a 兵役及び代役(男子)
14 所有権には義務が伴う(所有権の行使は公共の福祉に資すること)
フランス 前文 (1946年憲法)労働
2 (環境憲章)環境の保全と改良に参加
韓国 31 教育を受けさせる
32 勤労
38 納税
39 国防
122 国土の利用・開発・保全に関して、国家は国民に義務を課せる
スイス 59 兵役及び代替役務(女性は任意、従事しない男性には課税)
ロシア 57 納税
58 自然および環境を保護し、天然の富を大切に扱う
59 兵役・代替的市民奉仕(性別は書かれていない)
中国 42 労働
46 教育を受ける
49 計画出産を実行する。父母は、未成年子女を扶養し、教育する。成年子女は、父母を扶養する。
52 国家統一及び全国各民族団結
53 秩序遵守
54 祖国の安全、栄誉、利益を護
55 祖国防衛の責任、兵役
56 納税
日本 26 教育を受けさせる
27 労働
30 納税

解説 世界憲法集ちゃんとやりたい人は『解説 世界憲法集』(三省堂)の「比較憲法のすすめ」も読んでみるといいかもしれません。

三省堂版と比べると、岩波文庫版には索引があるので、この記事のようなちょっとした調べ物に便利です(というか、索引がない世界憲法集って何なんでしょう)。ただし、三省堂版には岩波文庫版には収録されていない国も含まれています(イギリスとイタリア。イギリスは憲法ではありませんが)。もちろん、全部日本語で電子化されて、プレイン・テキスト形式で利用できるのが理想です。