中学3年間、中勘助『銀の匙』1冊だけを教科書に行われたの国語の授業を紹介した『奇跡の教室』。この本に出てくる「魚偏の漢字は678字ある」という話を確かめられなかった、ということを以前書きました。
予想はしていたのですが、「諸橋大漢和だと『恩師の条件』書いてある」と教えてもらったので、さっそくチェックしてみました。
恩師の条件自体は私にはあまり関係がないのですが、「私は高校生の勉強を“孤独な戦い”に終わらせたくなかった(p.170)」というのに、我が意を得たりなどと思いながら見ていくと、次のような記述がありました。
漢字を知らなければその魚が口にはいらぬわけでもないが、魚の漢字を見てどんな魚かわかるというのも日本人的教養というものであろう。
どんな字があるか、辞書を写せば簡単だがそれでは面白くない。趣味と教養を両立させたいものである。すし屋で出すマッチ、箸ぶくろ、茶呑みなどに、魚つくしを使っているのがある。ちょっと気をつけていると何種類も集まってくる。その読解をやってみるとなかなか面白い。大漢和辞典の六七八字の中にさえ含まれていないで、いくら考えても読めないものもあり、まるで難しいクイズを解くようなおもしろさが味わえる。「銀の匙研究ノート」
「魚偏」とは書いていませんが、諸橋大漢和であることは確認できました。重くてちょっとあれなのですが、引っ張り出して確認してみると、魚部の漢字が679字あるので、おそらくこれのことだったのだろうと思います(魚偏だけに限定すると625字)。補巻で追加された魚部が23字(うち魚偏は20字)などを考えるとまたよくわからなくなるので、「魚部は約700字」ということにするのがいいかと思います。
「諸橋大漢和の情報ならUnicodeのデータベースに入っているじゃん」と思って、いつものようにUnihan.zipを漁(≠魚偏)ってみしたが、
grep kMorohashi Unihan_DictionaryIndices.txt | cut -f 1 | sort > morohashi.txt
grep "\\s195'\{0,1\}\." Unihan_RadicalStrokeCounts.txt | cut -f 1 | sort | uniq > 195.txt
join morohashi.txt 195.txt | wc -l
284
このように、284字しか出てきませんでした。CJK統合漢字拡張漢字に関しては、諸橋大漢和との対応はとられていないようですね。
魚魛魜魝魞魟魠魡魢魣魤魥魦魧魨魩魪魫魬魭魮魯魰魱魲魳魴魵魶魷魸魺魻魼魽魾魿鮀鮁鮂鮃鮄鮅鮆鮇鮈鮉鮊鮋鮌鮍鮎鮏鮐鮑鮒鮓鮔鮕鮖鮗鮙鮚鮛鮜鮝鮞鮟鮠鮡鮢鮣鮤鮥鮦鮧鮨鮩鮪鮫鮬鮭鮮鮯鮰鮱鮲鮵鮶鮷鮸鮹鮺鮻鮼鮽鮾鮿鯀鯁鯂鯃鯄鯅鯆鯇鯈鯉鯊鯋鯌鯍鯎鯏鯐鯑鯒鯔鯕鯖鯗鯘鯙鯚鯛鯜鯝鯞鯟鯠鯡鯢鯣鯤鯥鯦鯧鯨鯩鯪鯫鯬鯭鯮鯯鯰鯱鯲鯶鯷鯸鯹鯺鯻鯼鯽鯾鯿鰀鰁鰂鰃鰄鰅鰆鰇鰈鰉鰊鰋鰌鰍鰎鰏鰐鰑鰒鰓鰔鰕鰖鰗鰘鰙鰚鰜鰝鰞鰟鰠鰡鰢鰣鰤鰥鰦鰧鰨鰩鰪鰫鰬鰭鰮鰯鰰鰱鰲鰳鰴鰵鰶鰷鰸鰹鰺鰻鰼鰽鰾鰿鱀鱁鱂鱃鱄鱅鱆鱇鱈鱉鱊鱋鱌鱍鱎鱏鱐鱑鱒鱓鱔鱕鱖鱗鱘鱙鱚鱛鱜鱝鱞鱟鱠鱡鱢鱣鱤鱥鱦鱧鱨鱩鱪鱫鱬鱭鱮鱯鱰鱱鱲鱳鱴鱵鱶鱷鱸鱹鱺鱻鷠魯鱗
ちなみに、一家に一冊『字通』には、魚部の漢字は48字あるようで、このくらいが平和でいいなあと思いました。さらにちなみに、.NET版『字通』はすてに古くなっていて、残念ながらWindows 7にはインストールできません。紙の『字通』はこの先もずーと読めるでしょうから、改めて「紙は強い」と思いました。とはいえ、諸橋大漢和は重くて場所取ってあれなので、早く電子化してほしいのですが、
CD-ROM化に関しては、コンピュータで扱える漢字の数の問題や、『大漢和辞典』そのものの巨大さがネックとなって、一朝一夕には実現できない状況です。(「大漢和辞典 よくある質問」のQ13)
などと言うなら、とりあえず画像で、番号での検索のみ可能にしたバージョンを、DVDやiPad版で出せばいいんじゃないかと思います。ポスターならできるくせに。自炊している人とかいるんですかねえ。
『灘中 奇跡の国語教室 – 橋本武の超スロー・リーディング』というタイトルで新書化されました。