舟を編む

4334927769三浦しをん『舟を編む』(光文社, 2011)が映画になり、DVDになりました。

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原作でも映画でも、一つのものを時間をかけてゆっくり作っていく人たちの姿には、(フィクションとはいえ)頭が下がります。

原作で印象的だった、公の団体ではなく出版社が辞書を作る理由についての、松本先生のこの台詞は使われていませんでした。(ポイントを絞って映画化するのは当然です。)

公金が投入されれば、内容に口出しされる可能性もないとは言えないでしょう。また、国家の威信をかけるからこそ、生きた思いを伝えるツールとしてではなく、権威づけと支配の道具として、言葉が位置づけられてしまうおそれもある。(中略)言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものなのです。(p.226)

「漢字」とはちょっと違いますね。学問とも?

逆に、映画だけにあった印象的な台詞は、宮﨑あおいさんの「今でしょ」でしょ。

関連:辞書を編む

489629257X追記:国家的辞典の失敗の記録:飛田良文『国立国語研究所「日本大語誌」構想の記録』(港の人, 2012)

聖書男(バイブルマン) 現代NYで 「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記

448411111X聖書に忠実に生きたいなら安息日に働いてはいけない。では、聖書に忠実に生きることを「仕事」にしている場合はどうか。安息日に働かないでいると、聖書に忠実であるという「仕事」をしていることになり、聖書に忠実ではなくなってしまう。そんなジレンマに直面しつつ、聖書に忠実に生きようとした著者の一年の記録『聖書男』。ブリタニカ百科事典を読破した記録『驚異の百科事典男』と同じ著者だということに、後で気づいて納得。

参考文献リストあり。索引なし。

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『不思議の国のアリス』の翻訳3冊

私にとって『不思議の国のアリス』の翻訳と言えば、次の2冊が双璧でした。

44890121951冊目はガードナー版。あのマーチン・ガードナーが注釈を付けているのが理由です。

「わたし、地球を突き抜けてもまだ降下していくのかしら。」(p.30)

というアリスのセリフに、

空気の抵抗と地球が回転するために生ずるコリオリの力を無視すれば(穴が極から極へ貫通しているのでなければ)物体はいつまでも往復運動を繰り返す。

などという注が付くのはこの本だけでしょう。「アリスの挿絵はテニエルでないと」という人にもお勧めです。この本には文献リストが付いています。(Wikipediaに「不思議の国のアリスの挿絵」というすごいページがあるのですが、こういうページは百科事典の外にあった方がよりよいと思います。)

44800218682冊目は柳瀬尚紀版。あの柳瀬尚紀さんが翻訳しているのが理由です。

And the moral of that is—“The more there is of mine, the less there is of yours.”

という公爵夫人のセリフを、

この近くに大きなマスタード鉱山があるわ。つまり格言でいうと—『鉱山なき者は恒心なし』(p.126)

と訳すのはさすがです。ただし私が「恒産なきもの・・・」という孟子の教えを覚えたのは、職に就いてからだった—と、『鏡の国のアリス』の登場虫、あの無名で有名な蚊のように、小さな活字声で付け加えておきます。

4766124545最近3冊目が加わりました。草間彌生版です。

あの草間彌生さんの作品を挿絵に使っているのが理由です。疲れているときに読むのはやめた方がいいかもしれません。ものすごいパワーです。

草間さんがアリスのために挿絵を描いたというわけではなく(さすがに)、各場面に合いそうな作品をデザイナーが選んだということです。それでも、これだけの本をこれだけ安く売れる理由がよくわかりません。(英語版の中身検索が本稿執筆時点ではぶっ壊れてますね。)

論理や科学が好きな人にはガードナー版、ことば遊びが好きな人には柳瀬尚紀版、それ以外のすべての人には草間彌生版がお勧めです。(全部揃えても損はしないと思いますが。)

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80年代マイコン大百科

4881818325佐々木潤『80年代マイコン大百科』(総合科学出版, 2013)

物心ついたときに家にあったのが1979年発売のNEC PC-8001、その後家に来たのが1986年発売のEPON PC-286V。その間の、カタログを眺めるだけだった日々を、大量に掲載された当時のハードウェアやゲームのカタログ、雑誌の表紙などが思い出させる。1980年より前に生まれた世代の、昔を懐かしむ気持ちを狙った企画としては成功しているし、資料的価値もある。しかし、パッケージを買ってくるだけがゲームではなかった時代のことを伝えるには、また別の一冊が必要だろう。MSXが省かれているのが残念。

参考文献リストあり。索引なし。

関連:みんながコレで燃えた!NEC8ビットパソコン PC-8001・PC-6001

know

4150311218野﨑まど『know』(早川書房, 2013)

ネットで調べればわかることを「知っている」と表現する未来で、「自由に情報が取得でき、自由に情報が発信できるところにいなさい(p.52)」と言った教授の弟子である主人公が、イザナギとイザナミ、オルフェウスの神話を思わせる冥府への「知」の旅に出る。情報にも物理的実体はあり、その質量が人を惹きつける(これはメタファー)。だとすれば、星の重力崩壊(ブラックホール)に相当することが、「情報」でも起こるはず。それを冥府へと結びつけた発想が秀逸。

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