大島保彦『東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く』(産経新聞出版, 2013)(参考文献リストなし・索引なし)
東大の入試問題には、どういう学生に入学して欲しいかはもちろん、社会へのメッセージも込められているのだというお話。そのメッセージを読み解く余裕は受験生だった当時の私にはなかったが、今なら納得できるところもある。
どういうメッセージが込められているのかは本書を読んでもらうことにして、「社会へのメッセージを込める」という姿勢を今後も続けられるかというあたりが気になった。
東大の入試問題を見て、勉強のおもしろさがわかった若者の多くはアカデミズムに行ってしまっているのだと思います。そういった若者がアカデミズムに行き、実社会に出ないところが、「東大卒が期待に応えていない」という批判になっているのかもしれません。(p.187)
アカデミズムが実社会に入るかどうかはともかく、東大生の一部がアカデミズムに行くのは確かだろう。では東大生のレベルはどうなっているかというと、
東大を目指したいと思った生徒が「東大に受かりたい」という形(目的指向型)の勉強を必死にすれば、今は、東大に合格することはできると思います。東大の敷居は20年前に比べると、間違いなく低くなっているからです。(p.182)
敷居が低くなってバラツキが大きくなることのメリットもあるだろうが、アカデミズムに行くものの平均レベルが下がるのはまずい。しばらくするとその人たちがメッセージを発する側になるのだが、そのメッセージの質が下がれば受験生のレベルが下がり、悪循環が始まるからだ。
ここ数年、「東大の入試問題も劣化しているのかもしれない」と感じることがあります。(p.187)
これが悪循環の徴候ではなく、一時的なもの(あるいは著者の気のせい)であったほしいものだ。