本を読む人のための書体入門

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茨木のり子の有名な詩に「自分の感受性くらい自分で守れ」という言葉があります。

その言葉には、字のうまさよりも、タイピングの速さよりも、ずっと大切なことがこめられていると思うのです。(p.129)

「内容と形式を分離するのが原則で、内容の記述にはHTMLを、形式の記述にはCSSを使います」なんてことをよく言って、たしかにウェブはそのおかげでうまくいっているわけですが、その原則がいつでも通用するかというと、そういうわけではありません。

その例として私がよく使うのは、Knuth『The TeXbook』に掲載されている下の文章です。

円形の組版

ここで言っている形式は、「文章の構造」ではなく単なる「見た目」のことです。文章の構造が見た目と無関係かというと、そういうわけでもないのですが。

こういう例を持ち出すまでもなく、書体でさえも、文章の意味に影響するということは、なんとなくわかっているのですが、そのことをはっきりと説明してくれるのが、正木香子『本を読む人のための書体入門』(星海社, 2013)です。世に書体の本はたくさんありますが、同著者の『文字の食卓』や本書のような視点で書かれたものを、私は他に知りません。

『文字の食卓』は「味覚」が全面に出ていましたが、『本を読む人のための書体入門』でこだわっているのは、趣の意味での「味」です。著者の正木さんはこの2つの概念がかなり近いという特殊な感覚を持っています。

子供の頃、自分が好きだと思う書体、慣れ親しんでいる書体がつかわれている本から読んでいたとのことですが(p.102)、そんな人は極めてまれで(私は聞いたことがない)、そういう人だからこそ書ける本でしょう。

4088518314冒頭で紹介されるのはなんとあの、『ドラゴンボール』(連載第1回)! かつて夢中になって読んでいたはずなのですが、大切なことはまったくわかっていなかったのかもしれません。

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