インセスト―アナイス・ニンの愛の日記無削除版 1932–1934
アナイス・ニン (著), 杉崎 和子 (翻訳)
彩流社 (2008/03)
アナイス・ニン(1903/2/21–1977/1/14)の愛の日記(無削除版)第2巻が出た。『小鳥たち』が話題になったり、地味に売れている感のあるアナイスだが、『ヘンリー&ジューン』後の日記無削除版がちゃんと翻訳されるとは思っていなかった。けっこううれしいかも。次も翻訳されますように。
ニンの弟は、本書を姉の創作であると位置づけ、出版に最後まで強硬に反対したが、インセスト・タブーを乗り越えることにより、人間として、芸術家として成熟していったニンの克明な記録は、文学史上、比類ないものである。(版元ドットコム)
「無削除版」というのは関係者がみんな死ぬまで出版できなかった赤裸々な告白のこと。全6巻。
- Henry and June (1931–1932、28歳くらい)(日本語訳)
- Incest (1932–1934、29–31歳くらい)(日本語訳)
- Fire (1934–1937、31–34歳くらい)
- Nearer the Moon (1937–1939、34–36歳くらい)
- Mirages (1939–1947、36–44歳くらい)
- Trapeze (1947–1955、44–36歳くらい)
彼女の日記にはほかに、赤裸々な部分が削除された「アナイス・ニンの日記」(全7巻、1931–1974)と「アナイス・ニンの初期の日記」(全4巻、1914–1931)がある。「アナイス・ニンの日記」第1巻には翻訳がある。(追記:無削除版を除いて、翻訳はもう少しある。)
ひとつ残念だったのは、
翻訳の際に、(1)夢の一部、(2)ヘンリー・ミラーが書き込んだ部分、(3)家族やメイドについての日常的な記述、(4)同じような繰り返し、(5)ひと続きのテーマを中断するかたちで、突然割り込んでくる関係のない記述などを割愛した(p.7)
はじめにで書かれているように、編集に正当性はあるのかもしれないが、(2)はちょっと読みたかったなあ。アナイスの原稿にヘンリーが手を入れるシーンは、映画でも印象的だったし。
そう、『ヘンリー&ジューン』は、『存在の耐えられない軽さ』を映画化したフィリップ・カウフマンによって、マニアックに映画化されていて、これがかなりおすすめ。勉強になった(詳細は略)。
はまった人はアナイス・ニン・コレクションを。
ヘンリー・ミラー側からの回想も紹介しておくのがフェアってものかもしれない。
彼女はたしかに、ぼくのためにさんざん犠牲的につくしてくれた。ぼくが彼女に負っている借金は、大部分はもう支払われることはない。しかし、彼女のことをきっぱりと明らかにさせておくれ。彼女は自分のことを殉教者であると思わせていたけれど、それにしまいには、自分のことを本物の守護天使であると思わせていたけれど、アナイス・ニンは、ぼくの心のなかでは、決して聖者の域に達することはなかったよ。(『回想するヘンリー・ミラー』 p.181)