金環日蝕にあわせて『天地明察』が文庫化

2012年5月21日は日本のかなり広い範囲で金環日蝕が観られることになっています。

国立天文台によれば、

日本の陸地に限ると、金環日食が観察できるのは、1987年9月23日に沖縄本島などで見られた金環日食以来のことです。次回も2030年6月1日に北海道で見られる金環日食まで、18年間起こりません。非常に珍しい現象と言えるでしょう。(2012年5月21日に起こる日食の概要

ということです。

こういうことがちゃんと計算できるのがすごいところですが、それでもまだ人知の及ばない部分があり、金環日蝕が見える地域と見えない地域の境界は、日本とNASAでは違う予測になっているようです。

兵庫県のJR西明石駅周辺ではNASAの予測だと金環日食として見えるが、国立天文台の予測だとドーナツ状ではない部分日食となるという。(金環日食めぐる日米対決に注目! 国立天文台とNASAで「限界線」の予想で食い違い ニコニコニュース

人類はずいぶん古くから、正しい暦を作るために、あるいは知的好奇心から、天体の運動を正確に観測し、予測することに膨大な労力を注いできました。そういう歴史の中でも、皆既日蝕や金環日蝕はいつも変わらず最大級の注目を集めてきたことでしょう。太陽系内の比較的大きな天体の運行についてはだいたいわかってきた現代においても、そのハイライトに関してまだわからない部分があり、自分たちの予測が当たることを(その余地があるかどうかはともかくとして)祈っているであろう科学者がいることを思うと、胸が熱くなります。(わからないのは「太陽の大きさ」という、暦にはあまり影響の無いことではありますが。)

4041003180最近文庫化した、冲方丁『天地明察』(角川書店)にも、暦の優劣の決着を、蝕の予測の当たり外れでつけるという話が綴られています。秋には映画化も控えているようなので、内容を細かく紹介することはしませんが、この小説が多くの支持を獲得しているのは、暦の作成という、たいていの人は考えたくもないような細かいことを、人生をかけて追求すること、それが単なる知的好奇心だけからなるのではなく、地位・名誉・愛など、いわゆる人間らしいものと切り離さずにうまく描かれているからではないでしょうか。

4041002923『天地明察』は、暦・数学・囲碁が3本柱になっていて、どれか一つでも興味がある人は楽しめること間違いなしの小説なのですが、小学生だったときにインドネシア(?)の日蝕を観に行くことをかなりまじめに検討していたり(実現はしなかったけれど)、一応理学部天文学科卒で、プログラミング言語のカレンダーを解説するライターであったり(例:PHPにおける日付と時刻の混乱1秒にかける思いWebアプリの入門書にさえも日時処理の項を書いてます)、『月刊 大学への数学』に1年間欠かさず名前を載せた「遅れてきた数学少年」だったり、NHK囲碁トーナメントの対局をほとんどすべて観ている囲碁好きだったりする私は、人の3倍くらい楽しんでいるのではないかと思っています(ブログまで書いて)。

話を明日の勝負に戻すと、金環日食限界線共同観測プロジェクトなどというものもできて、ウェブと位置情報端末が普及した現代ならではの楽しみ方ができるようになっているのはさすがです。

0521702380数学とプログラミングが好きな人は、こんなところにも人生の楽しみを見いだせるかもしれません。

Nachum Dershowitz, Edward M. Reingold『Calendrical Calculations』(Cambridge University Press, 第3版, 2007)

それが、先人がうらやむような人生の楽しみにつながるかどうか、そのあたりも勝負でしょうね。