私は芥川賞を純文学の新人賞だと思っているので、すでにSF作家として広く認知されている円城塔さんが受賞したのにはちょっと不思議な感じがしました。まあ、円城塔さんの書きたいことを表現する方法として「SF」が最適かどうかはちょっと疑問があるので(SFの枠組みを広げているという言い方もできますが)、この受賞を機に読者層が広がって、もっとぴったりした方法をが見つかるかも、という期待はしています(僭越ながら)。
不可解な落選が過去にあったので、この受賞でみんなスッキリという効果もあるでしょうか(村上龍さんは選考会を欠席したそうですが)。
「円城塔」という名前の由来である、金子邦彦『カオスの紡ぐ夢の中で』が読まれて、金子さんの研究分野の周辺領域に興味を持つ人が増えると楽しいかも、と思っていたら、先に注目を浴びたのは、日本物理學會誌にかつて掲載された「ポスドクからポストポスドクへ」でした。あらあら。
アカデミズム版「政策より政局」みたいな話ではありますが、単純に言えば、
- 若手の大学教員や研究者の一部、ポスドクと呼ばれる立場の人は「ワーキングプア」になっている。助手や助教はプアではないが、数年という短い任期が過ぎれば追い払われる立場にいる
- (准)教授になってから時間が経った人の一部は、まともに教育・研究できないのはもちろん、もし首になったら再就職なんてとてもできない「使えないヤツ」になっている
ということなのですが、このような現実をこの芥川賞騒ぎの中で初めて知ったという大学生ももしかしたらいるかもしれません。大学院生がそうだととてもまずいでしょうね(あとで「自己責任」と言われるから気をつけて!)。
「ふだん偉そうにしている先生が実は・・・」ということを、時間的金銭的投資をしている学生たちはちゃんと知っておくといいでしょう。もちろん、それによって大学教員の権威は揺らぐわけですが、それくらいのことで話を聞いてもらえなくなる教員は、どうせたいしたことはないのです(ブーメランってやつです)。
『カオスの紡ぐ夢の中で』のほうが、やっぱり面白いですね。