本を書きました。『基礎からしっかり学ぶC++の教科書』


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『基礎からしっかり学ぶC++の教科書』(日経BP, 2017)

プログラミング言語なんて,Python一択になるんじゃないの?という向きは,TensorFlowのコードや,世界コンピュータ将棋選手権の参加チームの使用言語をご覧になるといいでしょう。「どうしてJavaやC++よりも遅いPythonが機械学習で使われているの?」などという話もあります。

『文法からはじめるプログラミング言語 MS Visual C++入門(マイクロソフト公式解説書)』(日経BP, 2009)の改訂版という位置付けですが,かなりの部分を書き直しました。

新しい話

  • C++11, C++14に対応しました。新しい話題は,型推論・ラムダ・ムーブ・新しい標準ライブラリ(ハッシュテーブル・並列処理・乱数・時間)などです。
  • Visual C++に加えて,GNU C++とClangでも,サンプルコードの動作を確認しています。
  • (実用的かどうかはともかく)C++の高速性が活きる例として,組み合わせパズルを解きます。(何を勘違いしたか,初刷では幅優先探索の英語が間違ってますな!)

なくしたもの

  • GUI(GUIアプリを作るならC++でなくてもいいだろうと考えてのことです。)
  • C++/CLI(旧版で,マネージ拡張という失敗例を紹介したわけですが・・・)

C++入門書の執筆は,プログラミング初心者からは「難しい」,C++のプロからは「いいかげん」と言われる,負けの決まった戦いです。(いいわけ)

松村真宏『仕掛学』(東洋経済新報社, 2016)


そういうわけで、松村真宏さんの『仕掛学』(東洋経済新報社, 2016)(参考文献リストあり・索引なし)を拝読したわけだが、特に興味深かったのは、第4章:仕掛けの失敗学(成功する仕掛けと失敗する仕掛け)、第5章:何かを「学」にするための仕掛け、第6章:この本が売れる理由(本を売るための仕掛け)、第7章:この本についてウェブで書かせるための仕掛け、第8章:娘たちへの思い、であった。もちろんこの記事は第7章の影響下にある。言われてみれば、量子論が量子力「学」になった経緯も詳しくは知らず。

東大駒場寮物語


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「今の学生は、学生を組織できないことがよくわかったよ」(p.191)

これは「存続運動がこれだけ盛り上がっているのを見て、どうですか?」という質問への、蓮實重彦教養学部長(当時)の回答である。駒場寮の存続を考える加藤登紀子コンサート(ときコン)の後の晩餐会でのやりとりだという。

松本博文『東大駒場寮物語』(角川書店, 2015)はセンチメンタリズムの本なのだが、考えさせる話がいろいろ盛り込まれている。

東大生(特に文I)には、(著者の表現ではないが)壁と卵で言えば壁の側に立つものが多い、とか。

古い友人が卵の側に立っていた(というか卵だった)ことを思い出したり。

追悼 柳瀬尚紀 ユリシーズを燃やせ


476014731420世紀の最も重要な小説の一つと言って間違いないジョイスの『ユリシーズ』は,当初は出版すら許可されない危険な小説でした。『ユリシーズを燃やせ』で描かれているユリシーズ合法化のプロセスは,「言論の自由」が当然の今日からすると,非現実的にすら見えます。しかし,原著から何十年も経った現代でも,ユリシーズの日本語訳に関しては,おかしなことが起こっています。

4309404952ことの起こりは1996年,すでにユリシーズの翻訳の一部を河出書房から出版していた柳瀬尚紀さんが,「翻訳実践の姿勢」という文書(『翻訳は実践である』で読めます)で,集英社から出版された丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳と,朝日新聞の紙面で両者の翻訳を比較した池澤夏樹さんをコテンパンにやっつけたことだと思います。

最近では,時間の無駄だからとか,ダメなものはどうせ消えていくからとかいう理由で,他者を批判することをよしとしない風潮がありますが,柳瀬さんはそうではなく,ダメなものはダメだとはっきり言う人でした。

それで結局どうなったかというと,柳瀬さんの翻訳は,ユリシーズ全18挿話のうち,1から6と12挿話だけが出版されたところで止まったまま現在に至っています(7,8,11挿話は後で文芸誌で発表されましたが,単行本にはなっていません)。

柳瀬さんの訃報記事では,「ユリシーズ翻訳の完成を目指していた」とありますが,翻訳はすでに完成していて「出版を目指していた」のだと私は思っています。河出でも新潮でもかまわないので,出版してください,お願いします。(表紙は青,分冊でなく一冊で) 追記:ジェイムズ・ジョイス/柳瀬尚紀訳『ユリシーズ(Ⅰ・Ⅱ)』は完訳? 追記:ユリシーズ1-12(2016年12月2日発売)

4101480117英和辞典を新潮社から出版する予定だという話を聞いて楽しみにしていましたが,さすがにこれは完成してはいないでしょう。(『辞書はジョイスフル』によると)柳瀬さんが高校時代,ふとんのなかにもトイレにも持ち込んで読んだという『熟語本位英和中辞典』が,表記を現代的に改めて岩波書店から出るとのことなので,それであきらめることにします。追記:『熟語本位英和中辞典』(2016年10月26日発売)。旧版の画像PDFと新版のPDF(検索可・DRM無し)

4826900252私が柳瀬さんを知ったのは,月刊『大学への数学』でのインタビュー記事(『学問は自由だ』で読めます)でだったか『ゲーデル,エッシャー,バッハ』の訳者の一人としてだったかは,もはや思い出せないのですが,いずれにしても,「人生において大いに影響を受けた」と言えるようになりたいものです。

数学まちがい大全集


大学入試で数学を選択するような,いわゆる「理系」の人間でも,簡単な数学をまちがうことがある。計算ミスとかではなく,数学的な概念を誤解していたり,直感を盲信したりすることによるまちがいだ。数学において,直感にとらわれるというのもひどい話だが,自分にもそれがないとは言い切れない。高校数学のカリキュラムの完成度からすると意外ではあるが,それを完全にマスターしていなくても大学には入れるのだから,しかたがない。

4759816186近くに教師がいれば,概念の誤解やゆがんだ直感を正すチャンスも多いかもしれないが,独学や趣味の数学ではそうもいかない。そういう場合にお勧めなのが,ポザマンティエ,レーマン『数学まちがい大全集』(化学同人, 2015)である(参考文献リストあり・索引あり)。

第1章「有名な数学者が犯した注目すべきまちがい」と第2章「算数におけるまちがい」はいいとして(違う意味で),a/b=a/cの両辺にbcを掛けてからaで割るようなまちがいや,方程式の両辺を2乗して得られた解をそのまま採用するようなまちがい,絶対収束しない級数の項の順番を変えるようなまちがい(以上は第3章「代数におけるまちがい」から),マンハッタン距離の極限をユークリッド距離にするようなまちがい(第4章「幾何学におけるまちがい」),確率的な判断における直感のまちがい(第5章「確率・統計におけるまちがい」)などは,よく目にする。

心当たりのある人,そういうまちがえに備える必要がある人は,一読されることをお勧めする。