アンドロイドは電気掃除機の夢を見るか

4150102295人間ができることのすべてをターゲットにする人型アンドロイドの研究者にとって、人間の「反応」をアンドロイドに模倣させることは大きな目標でしょう。ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』ではそのあたりがうまく描かれていました。

アンドロイドが人間と同じような反応をするかどうかは、感情移入度検査法でテストされます。

どれほど純粋な知的能力に恵まれているアンドロイドでも、マーサー教信者にとっては日常茶飯事の<融合>—標準知能以下のピンボケを含めた文字どおりすべての人間が、何の苦もなくやっている体験—をぜんぜん理解できないことが明らかになったのである。(p.41)

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それは対話による検査法です。リックがレイチェルをテストした際の対話は、こんな感じでした。

「では、最後の質問。二部に分かれた質問だ。きみはテレビで、むかしの映画—戦前に製作された映画を見ている。画面では宴会がはじまった。客たちはうまそうに生ガキを食べている」

「おえっ」とレイチエル。針が大きく振れた。

「主料理は、ライスの詰め物をした犬の丸煮だ」こんどは、生ガキのときより針の振れが小さかった。「生ガキのほうが犬の丸煮よりはましだと思うがね。その逆らしいな」(p.66)

テストの結果、レイチェルはアンドロイドだと判定されます。

人工知能が知性を持っているかどうかをテストするチューリングテストが、「知性」を使って「知性」をテストするという気の利いた構造になっているのに対して、感情移入度検査法はいまいちですね。

そこで、「アンドロイド」を使って「アンドロイド」をテストしたらどうかと考えた人がいました。

「女性型アンドロイドが部屋を掃除している」

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know

4150311218野﨑まど『know』(早川書房, 2013)

ネットで調べればわかることを「知っている」と表現する未来で、「自由に情報が取得でき、自由に情報が発信できるところにいなさい(p.52)」と言った教授の弟子である主人公が、イザナギとイザナミ、オルフェウスの神話を思わせる冥府への「知」の旅に出る。情報にも物理的実体はあり、その質量が人を惹きつける(これはメタファー)。だとすれば、星の重力崩壊(ブラックホール)に相当することが、「情報」でも起こるはず。それを冥府へと結びつけた発想が秀逸。

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R2D2について—人工知能のフレーム問題

4320120329R2D2の名前に関するトリビア。最近話題になった時、思い出せなかった。また忘れた時のために、ここに書いておく。

これは、Dennettによる、「フレーム問題」を説明するための例で、ファイファー, シャイアー『知の創成』(共立出版, 2001)で紹介されてい(p.63)。翻訳が出たのは10年前だが、いい教科書だと思う。「ロボットが好き」とか言う人は、一度こういうルートを通ってほしいものだ。

ロボットたち

略称 名称 運命
R1 robot
R1D1 robot-deducer
R2D1 robot-relevant-deducer

タスク

部屋にバッテリーと爆発寸前の爆弾が乗ったワゴンがある。ロボットは、この部屋からバッテリーを持ってこなければならない。

運命?

R1

  1. 「(バッテリーの乗った)ワゴンを部屋から出すという行動が、結果的にはバッテリーを部屋から出すことになる」という仮説を立てた。
  2. ワゴンを部屋から出すことに成功。
  3. 爆弾もワゴンに乗っていたため爆死。
R1D1(直接的な帰結だけでなく、副次的な帰結も認識できるように推論する)
  1. R1同様、ワゴンを部屋から出すことを思いついた。
  2. 推論メカニズムによって、その行動により引き起こされる帰結の関連を考え始めた。
    • ワゴンを出しても壁の色は変わらない。
    • ワゴンを出すと、ワゴンは静止しているときよりも車輪が多く回る。
    • ・・・
  3. 爆死
R2D1(副次的な帰結のうち関連のない帰結は無視する)
  1. 膨大な帰結の中から無関係なものを無視すべきもののリストに加えつづける。
  2. 爆死

4320122461じゃあ、R2D2 (Reel Two, Dialog Two)は?

ちょっと前に、一般向きの『知能の原理—身体性に基づく構成論的アプローチ』も出ていた。

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追悼 浅倉久志さん

このブログの読者で、下に出てくる本の中で読んだことのあるものが一冊もないという人はいないと思う。(反例を見つけたら、読者を把握できていないと笑ってください。読んでも損はないと思いますが。)

2010年2月14日 享年79歳

SFを愛する者として、こういうときに祈るべきは「冥福」なのだろうか。

The S.O.U.P.

The S.O.U.P.川端 裕人
角川書店 (2004/05)

ゲド戦記を急いで観るつもりはないのだけれど、ゲド戦記から繋がるサイバー小説。2001年の出版だが、本文中の「JAVA」を「FLASH」に置き換えれば、十分「今」的になると思う。

本書に登場する「ハッカー」の定義

  • ハッカーというのは、もともと技術の高さと情熱の強さを言う言葉であり、(p.10)
  • ハッカーとは常に物事を改良したがる連中だ(p.26)
  • コードを読み書きできる人(p.170)
  • 魔法使いの力—『スター・ウォーズ』に出てくる「フォースのようなもの—を良い方向に使うのがハッカー(p.213)
  • 物事の仕組みを理解したいと願い、理解したら改良しようとする連中(p.257)
  • ハッカーであることは、共同体に保証してもらうようなことじゃないんだ。自由を愛し、知的に面白いものにかじりつく性向を言うんだもの(p.403)

能力はあるが賢いわけではないという意味で、スター・ウォーズのたとえはいいね。「善人はハッカー、悪人はクラッカー」と誤解している人が多いけれど、もともとも意味には善悪は関係ないというのが重要だと思う。

関連図書(出典がわかるものは他にもたくさんあるけれど、ここでは具体的な書名が出てくるものだけを挙げておく)。

Happy Hacking!

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