コンピュータが仕事を奪う


4532316707新井紀子『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社, 2010)(参考文献リスト無し・索引無し)

コンピュータに仕事を奪われないためには、コンピュータには難しいが人間ならできる、クラウドソーシングによって労働の単価が下がらないスキルを身につけておく必要がある。本書では、現時点でのその境界が、わかりやすい例を使って説明されている。計算はコンピュータに任せて「筋」がわかればよい「第二言語として数学が話せる能力」が推奨されているが(p.193)、それを身につければよい理由はもう少し説明がほしかった。プログラミング能力のほうがいいような気がするが、いずれにしても、それを身につけられない多くの人は、働かないと生きられない社会ではつらい状況に追い込まれるだろう。

細かいこと(第1版第1刷)

  • p.103 フェルマーの最終定理の式?
  • p.121 クラウドソーシングが可能でも、労働力は限られているため、必ずしも労働の単価が世界の最低賃金まで下がるわけではないと思う。
  • p.194 数独とクロスワードパズルの話では,数独というゲームの難しさを知っているかどうか(見積もれるかどうか)が大事ではある。囲碁とクロスワードパズルでも似たような話にはなるが,逆の結論になるかもしれない。

数学ガールのミルカさんが「こうなる」とひと言発する間にやっていること(ウラムの螺旋)


4797374152結城浩『数学ガールの秘密ノート 整数で遊ぼう』(SBクリエイティブ, 2013)(索引あり・参考文献リストあり)にウラムの螺旋が出てきます。

100くらいまで描いたところで、

「あ、あたしっ、この先にも興味があります。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……とずっと続けたらどんな図形が表れるんでしょう」

と言うテトラちゃんに応えて、

「こうなる」

と言ってミルカさんがかなり大きなウラムの螺旋を見せています。(p.70)

「ウラムの螺旋」で検索すればぱっと出せそうな気もしますが(インタラクティブなものなんかも)、本書で描かれているのは1から始まるよくある螺旋ではなく、0から始まる螺旋なので、そうでもないかもしれません。そもそもミルカさんは、「こうなる」といいながらウェブ検索をするキャラではありません。

ですから彼女は、「こうなる」とひと言発するわずかの時間でウラムの螺旋を描くスクリプトを書いているんだと思うのです。(彼女はノートPCを持ち歩いている設定でしたっけ?)

そんなことができるのかと思って最初に思いつくのはこんなスクリプトです(Mathematica)。UMMでも動きます。

spiral[size_, start_] := With[{center = Ceiling[(2 size - 1)/2]},
  Module[{
    m = Table[start, {2 size - 1}, {2 size - 1}],
    i = start},
   Do[
    Do[m[[r, center + k]] = ++i, {r, center + k - 1, center - k, -1}];
    Do[m[[center - k, c]] = ++i, {c, center + k - 1, center - k, -1}];
    Do[m[[r, center - k]] = ++i, {r, center - k + 1, center + k, 1}];
    Do[m[[center + k, c]] = ++i, {c, center - k + 1, center + k, 1}],
    {k, 1, size - 1}];
   ArrayPlot[PrimeQ[m] /. {True -> 1, False -> 0}]]]

これで「spiral[4, 0]」などとすればウラムの螺旋を描けますが、会話のテンポはかなり遅くなるでしょう。

会話のテンポを自然なものに保つためには、もっとコンパクトなスクリプトを書けなければなりませんが、すぐには思いつきません。(かつて書いたスクリプトがノートPCに保存してあった?)

というわけで、彼女は優秀な高校生だという物語の設定は、そのとおりだと思いました。

会話形式で書かれている数学ガールには、会話のペースに合わせてできるものだろうかと考えながら読む楽しみがあります。

せっかくなので、サイズを大きくしたときの変化を見てみましょう。

Animate[spiral[size, 1], {size, 1, 100, 1}]

サイズを大きくしたときの変化

中心の数を変化させたときの様子も見てみましょう。

Animate[spiral[50, start], {start, 0, 100, 1}]

中心の数を0から100まで変化させた様子

Wolfram CDF Playerがインストールされていれば、インタラクティブに調べられます。


数学小説


4794219555ガウラヴ・スリ、ハートシュ・シン・バル『数学小説 確固たる曖昧さ 』(草思社, 2013)

「数学が人生に意味を与えるか」と問われたら、たいていの人は「そんなことはない」と答えるだろう。数学を純粋に楽しんだり、そこに美を見出したりする人でもやはり。しかし、数学「も」人生に意味を与えることができるかもしれない。数学とフィクションを組み合わせたこの物語は、数学的な題材を紡いでつなげてある牧師の言葉(≠伝導の書第一章)に行き着く。題材は平凡で現実味に乏しいが、「数学小説」としては成功している。

UBASICの動かし方


吉田武『オイラーの贈物』をまじめに読んでみるという話をしたら、「Windows 7 64bitしかないのですが、どうしたらいいでしょう」と訊かれました。

『オイラーの贈物』で使われているUBASICは、DOS用に開発されたBASICですが、32bit版のWindowsのコマンドプロンプトなら動きます。残念ながら、64bit版Windows 7では動きません(参考:UBASIC を Windows Vista/7 で動かす方法)。

『オイラーの贈物』は、次の機会にUBASIC以外の言語を採用したほうがいいと思いますが、全文公開されている木田祐司・牧野潔夫『UBASICによるコンピュータ整数論』(日本評論社, 1994)等、UBASICに特化した資料を楽しむには、やはりUBASICに動いてもらわなければなりません。

Widows XPのインストールディスクを持っているなら、仮想マシンにWindows XPをインストールしてもいいでしょう。

Windows 7 Professional以上を使っているなら、XPモードを試してもいいでしょう。

皮肉なことに、これらの方法よりも、Linuxで動くDOSエミュレータを使う方が簡単です。Ubuntuなら、UBASICをダウンロード・展開したディレクトリで、

sudo apt-get install dosbox
dosbox ubv32.exe

などとすれば、UBASICが起動します。日本語は文字化けしますが、とりあえずはよしとしましょう。簡単ですね。

こういうこともあるので、すぐに使えるLinux環境が手元にあるとなにかと便利です。

高校生のための数学入門書『オイラーの贈物』


吉田武『オイラーの贈物』は、オイラーの公式「exp(i x) = cos x + sin x」(別名:博士の愛した数式)を理解することを目標に掲げた数学の入門書です。対象年齢は10代後半くらいかと思います。1993年にハードカバー(456ページ)で出版され、2001年に文庫化(516ページ)、2010年にソフトカバーの新装版(516ページ)が出ました。

新装版あとがきによれば、これだけ版が変わっているのにはいろいろと大人の事情があるようなのですが、約1000ページの大著『虚数の情緒』で全方位独学法を提唱している著者にすれば、数学の不変性と出版業界の変化の激しさを同時に見せているこの状況は、まさに「してやったり」というところなのかもしれません。

高校生だった当時は、気になっていた数学教育上の(細かい)問題がなおざりだったのでスルーしましたが、高校合格祝いに弟に贈った思い出の本です。プレゼント用には、最初のハードカバー版が一番いいです。

一冊の本としては分厚いほうではありますが、高校生が本当にこれで「オイラーの公式」までの数学を楽しんで身につけられるかというと、よくわかりません。私自身、「数学をちゃんと勉強してから物理をやろう」というマジメな塾に通っていたので、「オイラーの公式」までの数学は高校時代に理解していたと思いますが、そこにいたるまでのトレーニングを全部あわせると、この本の分量を遙かに超えています。ですからこの本は、高校生が数学を勉強するためのものではなく、すでに一度学んだ人が一冊で気分良く復習する(懐かしむ)ためのものだと考えた方がいいでしょう。

そもそも、一つの目標だけを掲げて数学を勉強するのは、冷静に考えればけっこう空しいことのように思いますが、「売れる企画」であったことは間違いありません。この形式を思いついたのはすごいと思います。新装版あとがきで著者自身が言うほどの「名著」かどうかは議論のあるところかもしれませんが、この本を出発点にして、いろいろ楽しめることは確かです(例:『オイラーの贈物』のバグ)。

「オイラーの公式」を前面に押し出している本書ですが、この公式の証明自体は516ページある新装版の236ページで済んでいて、残りは発展的話題と数表、問題解答にあてられています。発展的話題とオイラーの公式との関連が薄いのが残念なところで、オイラーの公式を目指してせっかく頂上まで登ったのに、その眺望を楽しませてはもらえません。眺望を楽しむには、似たような企画である、ナーイン『オイラー博士の素敵な数式』(日本評論社)が向いてそうですが、こちらで扱われる数学は、『オイラーの贈物』よりずいぶん高度なものなっています(大学後半レベル)。

今高校生に数学の入門書を贈るなら、数学ガールシリーズもおすすめです。