角の三等分

4480090037矢野健太郎 著・一松信 解説
筑摩書房 (2006/07)

夏の読書感想文で読む本がまだ決まっていない人向け。

ギリシアのデロス島で流行した悪疫を沈める条件としてアポロンの神霊が出した三大作図問題の一つが「与えられた角を三等分すること」。

昭和初期に創刊されたシリーズ「科学の泉」のうちの一冊、矢野健太郎『角の三等分』は、角の三等分が、(直線を引くためだけに用いる)定規とコンパスの有限回の使用では不可能なことを、中学生でも納得できるような語り口で解説している。ただし、不可能性の証明は中学生には難しいためか省かれていて、その証明(代数学)を一松氏が解説として補ったものが、ちくま学芸文庫から復刊された。

角の三等分が、定規とコンパスではできないことは、たいていの人が知っているだろう。でも、ちゃんと証明を読んだ人は少ないのではないだろうか。それを文庫で読めるのだから悪くない。不可能なことが証明されているにも関わらず、その実現を目指す人たち(角の三等分屋)のエピソードなども添えられていて、なかなかおもしろい。

厳密には不可能といっても、現実の製図の精度の範囲内では問題ないと思われる方法(デューラー法、あの銅版画家のデューラー)は、読めば誰でも試してみたくなるのではないか。とはいえ、手元にコンパスがなかったから、AutoCADの機能を作図で許されることだけに限定してやってみる(とはいっても、中点をとるとか3点を通る円を描くとかはCADの機能を使う)。

デューラー法

描き方は意外に簡単。

  1. 三等分したい角をAOBとする
  2. ABを三等分し、Aに近い点をMとする
  3. Mを通るABの垂線と、弧ABの交点をCとする
  4. AB上に、AC=ADなる点Dをとる
  5. MDを三等分し、Dに近い点をEとする
  6. 直線OEが求めたい三等分線になる

40度になるべきところが39.97度なのだから、実用上は何も問題ないだろう(CADでの実用時には、40度と指定して線を引くだけだが)。手で描いて分度器で測ったら、「できるじゃん!」と思うかもしれない。AutoCADが出した角度(39.967897)が、この方法でできる角度を数値的に計算した結果と完全に一致しているのはさすが。それにひきかえ、本書で与えられている近似作図の誤差の数値(p.182、表2)は、けっこう間違ってる。計算誤差があると本文で断っているからまあいいんだけど。

参考

中学生の頃、ユークリッドの作図のルール(コンパスと定規を有限回使う)を不満に思った人は多いと思う。そういう人は、この本を読めば、このルールが四則演算とルートの計算だけで有利係数代数方程式を解くことに対応していることがわかって、不満が解消されるかもしれない(ユークリッドがどこまでわかっていたかは不明だが)。

それでも私は、作図できるものを道具として使ってもいい幾何学がほしいと思う。大工の源さんならできるのに

別の話:

コンパスと定規でローマ字はできない(小林 章:タイポグラフィーの境界を超えて

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やっぱり数学も経験科学なのか

Derek Partridge. Computer’s ability to verify proof is an illusion. Nature 425, 121 (11 September 2003.)

コンピュータを使った証明はチェックがほとんど不可能な領域に達しているという記事(Nature 424, 12; 2003)に対する反応。正しいと思われた証明が実は間違いだったという例もあるように、そもそも正しいと確信できることが間違いだとのこと。数学者がそう思っているとは知らなかったな。