数学まちがい大全集


大学入試で数学を選択するような,いわゆる「理系」の人間でも,簡単な数学をまちがうことがある。計算ミスとかではなく,数学的な概念を誤解していたり,直感を盲信したりすることによるまちがいだ。数学において,直感にとらわれるというのもひどい話だが,自分にもそれがないとは言い切れない。高校数学のカリキュラムの完成度からすると意外ではあるが,それを完全にマスターしていなくても大学には入れるのだから,しかたがない。

4759816186近くに教師がいれば,概念の誤解やゆがんだ直感を正すチャンスも多いかもしれないが,独学や趣味の数学ではそうもいかない。そういう場合にお勧めなのが,ポザマンティエ,レーマン『数学まちがい大全集』(化学同人, 2015)である(参考文献リストあり・索引あり)。

第1章「有名な数学者が犯した注目すべきまちがい」と第2章「算数におけるまちがい」はいいとして(違う意味で),a/b=a/cの両辺にbcを掛けてからaで割るようなまちがいや,方程式の両辺を2乗して得られた解をそのまま採用するようなまちがい,絶対収束しない級数の項の順番を変えるようなまちがい(以上は第3章「代数におけるまちがい」から),マンハッタン距離の極限をユークリッド距離にするようなまちがい(第4章「幾何学におけるまちがい」),確率的な判断における直感のまちがい(第5章「確率・統計におけるまちがい」)などは,よく目にする。

心当たりのある人,そういうまちがえに備える必要がある人は,一読されることをお勧めする。

大人の塗り絵:塗り分けに五色必要な地図(1975年のエイプリルフール)


4102184619四色あれば,地図上の隣り合う領域の色が同じにならないように塗り分けられるという「四色定理」は,1800年代後半に予想され,1976年にコンピュータを使って「証明」された。

定理が「証明」される前の1975年に,マーチン・ガードナーが塗り分けに五色必要だとして発表した次の絵が話題になったという。(参考:Martin Gardner's April Fool's Map

これはエイプリルフールのネタだったのだが,四色で塗り分けたという手紙が数百通届いたらしい。(ロビン・ウィルソン『四色問題』(新潮社, 2013)p.38)

この大人の塗り絵をやってみたい。

0387753664Mathematica in Action で,塗り分ける方法が紹介されているのだが,http://extras.springer.com/からダウンロードできるコードは,最近のMathematicaでは動かない。(Mathematicaの言語仕様は後方互換性を保持しながら進化しているのだが,外部パッケージが本体に取り込まれた場合は,大抵うまくいかない。)

そこで,簡易版を作る。領域の境界線が垂直または水平の2pxの黒い実線の場合にのみ対応するという意味で「簡易」である。

Importで画像を読み込み,MorphologicalComponentsで領域に分割する(Colorize[matrix]で描画)。

四色で塗り分ける。(参考:ヨーロッパの地図の4色を求める

色を1組の真偽値で表し,色が同じでないという条件を連言標準形で記述することで,高速化している。

細かい注意:上の結果は周りが海に囲まれていても大丈夫なように,条件を追加して求めたもので,このコードの結果とはちょっと違うものになっている。

最後の描画はColorize[matrix, ColorRules -> cTable]でもいいのだが,この関数にはバグがあり,Mathematica 10.4.1では正しく動作しない。(製造元には報告済み。Ver.11で修正された。

馬場博史『国際バカロレアの数学 世界標準の高校数学とは』(松柏社, 2016)


4775402315多くの国で大学入学資格として認められている国際バカロレア(IB)資格。その取得に必要な能力のうちの数学について解説した一冊。その特徴は,①学際的であること,②グラフ電卓が必要であること,③試験中に公式集を参照できること,であろう。

1107628423①学際的であることは,第4章で紹介されている問題に,日本の大学入試ではあまり見ない応用数学の問題が多いことに表れている。必修要件の一つ,Theory of Knowledgeの参考書Decoding Theory of Knowledge翻訳が出るらしい)にも学際性を感じる。

②グラフ電卓に必要な機能と利用できる機種のリストは http://www.ibo.org/globalassets/publications/use-of-calculators-jp.pdf にある。数式処理システム(Computer Algebra System, CAS)の機能が不可というのはちょっと中途半端ではないだろうか(紙と鉛筆だけの日本を棚に上げて)。

今後,IB認定校になる学校の数学の教員は,グラフ電卓を自由に使いこなし,指導できるようになることが求められる。(p.195)

このあたりは時代とともに変わるはずだから,日本の高校教師には,もっと先を行ってCASを自由に使いこなせるようになることを求めたい。

公式集の日本語版を見ると,日本の高校数学よりも,少し範囲は広いようだが,そのあたりの詳細な比較があるとよかった。(日本の大学入試も,もう少し範囲を広くして,その分難易度を下げた方がいいと思う。)

細かいこと

  • Mathematical Exploration(試験とは別に課されるレポート)には,所属校の教員の能力が強く影響しそう。
  • (2次元ベクトルの外積が)C言語などでも使われている(p.123)というのはどういうことなのだろう。
  • 第4章で紹介されている問題(全41問)に類題が多すぎる。
  • 周期的な時系列データに関する問題(18, 21, 22, 24, 25, 26)で,a sin (b(t-p)) +qというモデルを何の検証もなく導入しているのはよくないと思う。より悪いモデルでも,何らかの検証がある方がマシだろう。(それを高校生に求めるつもりはない。問題があまりよくない気がする。)
  • 問題40は,x=p(1-p)とすればふつうの電卓でも解ける。
  • Further Mathematics HL(最高レベルの数学科目)の話題がもっとほしかった。

『プロの数学』・『大学数学への道』


4489022123大学入試の数学の問題には,高校の範囲を超えた数学の知識があって初めてその本質を理解できるものがある。そういう問題とその本質を紹介する2冊。松野陽一郎『プロの数学』(東京図書, 2015)米谷達也・斉藤浩『大学数学への道』(現代数学社, 2013)

4768704255『プロの数学』(プロの定義は不明)は,その大部分が線型代数と解析になっていて,大学の教養の数学にそのままつながりそう。『大学数学への道』はそういうことにこだわらず,興味深い話題をいろいろ紹介してくれる。

こういう企画は面白いし読んでいて勉強にもなる。しかし,こういう企画が成り立ってしまうことが,大学入試の欠陥を表しているとも思う。大学入試なのだから,高校で学ぶ範囲でその本質を理解できるものを出題するのが理想だと思うのだが,それでは入試が成り立たないということなのだろう。

この本で取り上げた大学入試問題は,すべて東京大学と京都大学の過去出題問題になりました。いろいろ考えた結果,こうなりました。(『プロの数学』p.v)

東大と京大の問題の質が一番よかったということだと初めは解釈したが,東大と京大の問題が特に理想から遠いおかげでネタにできたということもあるかもしれない。

問題に書かれていない本質を捉えるためには「出題者の意図」を探ることが必要で、『プロの数学』にはそういう表現が何度も出てくる。出題者の意図を探ることが、数学のトレーニングにおいてよいことなのかどうか考えさせられる。

数学とチェス


4489021860クリスティアン・ヘッセ, 鈴木俊洋訳『数学者クリスティアン・ヘッセと行くマジカルMathツアー』(東京図書, 2014)(参考文献リストあり、索引なし)に「106 数学とチェス」という項目があり、次のような局面が紹介されています。

白の手番であれば、「1:ナイトc7」で詰む。黒の手番であれば、「1:・・・ナイトc2」で詰む。(p.239)

つまり問題は、この盤面状況において白か黒のどちらのプレイヤーの手番なのかということに帰着する。(p.240)

(中略。この局面が白番なのか黒番なのかを解明するための数学的議論)

したがって、上の盤面では、必然的に黒の手番であるということになる。そして、最終的にナイト*7をc2に突入させて勝つのも黒である。(p.241)

*7 一手でつむわけではないことに注意。〔訳者〕

疑問点が2つあります。第一に、黒から詰ます手は無さそうに見えます。第二に、盤面が白黒どちらの手番なのかは決まらない気がします(この局面から始まりこの局面で終わる、つまり手番が入れ替わるような手順があります)。d2にポーンがあればいいのでしょうか。

訳者は、読者が*7をどう読むと読んでいるのか。それが読めません。