キーボード配列QWERTYの謎


キーボード配列QWERTYの謎安岡 孝一, 安岡 素子
NTT出版 (2008/03)

日記でたびたびQERTY配列に関する俗説を批判されていたから、調べられていることを知っていた人は多いと思う。その集大成を、かなり期待して待っていた私。

QERTY配列に関するメジャーな俗説は次の2つ。

  • 人間がキーを打つ速さにタイプライタのメカが対応できなかったため、キー配列をわかりにくくして速く打てないようにした
  • TYPEWRITER社のセールスマンが、一番上の列だけを使って社名を素早く入力できるようになっている

私自身、第一の俗説を信じていて、それを披露していたこともあった(ごめんなさい)。披露して、第二の説で反論されたことも。

本書は、これらがガセネタだということを、歴史を丁寧に追うことで証明した力作。前著「文字符号の歴史」は価格が「うっ」という感じだったが、今回はリーズナブル。

俗説を日本で広めた人もちゃんと調査されている。広まる原因には有名人がいるわけで、

一九八七年一月、東京大学の坂村健が「アンチQWERTY説」を、(中略)という文章で流布した直後に、一橋大学の今井賢一や東京大学の石田晴久が「アンチQWERTY説」を引用し、あっという間に日本中が「アンチQWERTY説」で埋まっていった。(p.174)

なんか、各方面で敵を作りそうな・・・。ちなみに、俗説の日本での初出はおそらく1924年とのこと。日記でもいろんな例を紹介(攻撃)されている。

前著の時も感じたことだが、安岡夫妻の書籍を紹介するのはちょっと難しい。というのも、

学者がその論文や著書に、歴史に関する記述を含めるのなら、当然そこには歴史学者としての姿勢が求められるはずだ。歴史の事実を追求しようという姿勢だ。しかし、現実はそうではなく、孫引きや曾孫引きがエンエンと繰り返されてきた。(p.188)

と主張する安岡夫妻の著作を引用することが、まさにその批判の対象になるだけでなく、失礼なのではないかと思われるからだ。とはいえ、

これまで肥大化し続けてきた「アンチQWERTY説」に対して、私たち夫婦の投げるこの石は、あまりに小さい。願わくば本書の読者も、今後は「アンチQWERTY説」に向かって石を投げてくださることを、切に望む次第である。(p.189)

とあるから、石を投げてみよう。援護射撃になればいいのだが。

ウェブの世界でも、Googleに「QWERTY」と訊けば、いわゆる「アンチQWERTY説」が上位に出てくる。みんなの意見は案外正しくない。

QWERTY配列は、19世紀後半に英文のタイプライターが開発された当初のキー配列がそのまま継承されたものであり、この配列が採用された理由については、タイプライターのバーが互いに絡みにくいように設計されたものであるという推察が有力となっている。そうであるならば、キーは故意に打ちにくく設計されていると表現することもできるため、両手全指を用いてタッチタイピングを行うことの多い現在でもQWERTY配列が最良であるか否かについて、様々な意見が飛びかっている。(IT用語辞典バイナリ, ZENetの用語解説

タイプライターのバーが絡みにくいように設計されており、故意に打ちにくくしてあると揶揄される傾向があるが、実際には左右交互の打鍵になるように配慮して配置されている。(HitachiSystemsのパソコン用語辞典, e-Words

IT用語辞典では、いろんな同じ文章を使い回している例がよくあって、以前から気持ち悪いと思っていた。ここで挙げた例を見ると、気持ち悪いでは済まされないことになってしまうことがわかる。もし、内容が間違っていても、いろんなサイトで使い回されていると、その間違いがなかなか消えないのだ。

何故 Qwerty 配列になったのかというと、英文を平でタイプしたとき、連続して出てくる文字の統計をとって、アーム(印字を行うために紙にたたきつける棒)が交差しないように決められたものなのです。タイプライターは機械的な動作をする物なので、この Qwerty配列 はもっぱら構造的な制限から決められたものだったのです。(雪下智且「キーボードの歴史」

タイプライターのキー配列は,英字キーの最上段を左から読むと「QWERTY」となることから,QWERTY配列と呼ばれた。タイピング・スピードが高速になると印字ヘッドが交差してしまうという機械部分の問題から,あまりタイピング速度が上がらないQWERTY配列に収束していったと言われている。1880年代後半のことだ。つまりQWERTY配列は人間が機械に合わせるという妥協の結果生まれたものだ。(八幡勇一の「キーボード論」(ITpro)

若い人の中には、もはや英文タイプライターを見たことない人もいるかもしれませんが、キーを打つと、キーで蹴っ飛ばされたアームがハンマーのように動き、インクリボンと紙を打ち、文字が印字される仕組みです。このとき、近くにある二つのキーをほぼ同時に打つと、アーム同士が押し合ってからまり、調子良く打っていたのに中断され、からまりを解くのに苦労することがありました。そこでアームの衝突を防ぐために、連続して現れることの多い文字がなるべく遠くに配置したのが現在のQWERTY 配列だという説がありますが、真偽は不明です。(キーボード配列の歴史

「みんなの意見」は案外正しいというし、ウェブは「みんなの意見」だけを目立たせるシステムになりつつあるのだけれど、本書を読むと、そう単純でもないよなあ、と自戒せずにはいられない。

欲を言えば、もっと最近の事情まで扱って欲しかった。和田先生の論文「けん盤配列にも大いなる関心を」で扱っているあたりまで。「A」の左がControlなのかCaps Lockなのかが、私にとっては大問題なのだ。

追記:安岡さんにコメントで教えていただきました。以下の文献で少し現在に近づきそうです。

頑張る日本の文房具


頑張る日本の文房具-ジャパニーズ定番ステーショナリーの実力副題:ジャパニーズ定番ステーショナリーの実力
シリーズ知・静・遊・具編集部
ロコモーションパブリッシング (2006/5/25)

ナショナリズムを煽ろうというわけではないけれど、なつかしさはあるね

コクヨキャンパスノートは30周年らしいけど、私が使ったのは1975年モデルと1983年モデルだったりする