東大の教養、東工大の教養


大学における教養教育は、かつては重視され、一時衰退し、今また重視されるようになりつつあります。教養が重視されるのはとてもいいことですが、そもそも教養とは何か、教養教育では何を教えるかということになるといろんな考え方があります。例えば、東大で長年教養教育をしてきた斎藤兆史さんの『教養の力 東大駒場で学ぶこと』(集英社, 2013)と、東工大で教養教育を始めた池上彰さんの『池上彰の教養のススメ 東京工業大学リベラルアーツセンター篇』(日経BP社, 2014)を比べると、「教養教育」と言っても、その考え方は大学によって大きく異なることがわかります。

東大の教養

4087206858斎藤兆史『教養の力 東大駒場で学ぶこと』(集英社, 2013)(参考文献リストあり・索引なし)によれば、教養には(1)学問や知識それ自体、(2)学問や知識を吸収すること、(3)学問や・知識を吸収することによって備わる心の豊かさや理解力、人間的品格という3つの側面があり、(A)知的技術、(B)バランス感覚、(C)倫理・人格・善という3つの柱に支えられているそうです。

教養の修得は、教師の背中を見てのまねびによる部分もありますが、書物を通じてなされるのが基本だとして、『東大教師が新入生にすすめる本』(文藝春秋, 2004)『東大教師が新入生にすすめる本2』(文藝春秋, 2009)小林康夫・山本泰編『教養のためのブックガイド』(東京大学出版会, 2005)、『東大教師が新入生にすすめる本』で著者が推薦した3×3冊が紹介されています。

東工大の教養

4822274373池上彰『池上彰の教養のススメ 東京工業大学リベラルアーツセンター篇』(日経BP社, 2014)(参考文献リストなし・索引なし)は、冒頭で、小泉信三さんの「すぐに役に立つものは、すぐに役に立たなくなる」という言葉が引用されてはいますが、結局のところ、教養は何の役に立つのかということを、さまざまな側面から検討するものになっています。教養によってできることの例として、以下のようなものが挙げられています。ただし、「役に立つかどうかなんて、あとからついてくるおまけにすぎない」という注意もされています(p.52)。

  • 自ら問題を発見し、自ら答えを見つけてくるのには教養が必要(p.32)
  • ルールを作る側に回るには教養が必要(p.33)
  • 生物学(の教養)からあらゆる変化に対応する知恵を得られる(p.35)
  • 教養は「創造的」な力をもたらしてくれる(p.38)
  • (教養として)「歴史」を学べば「人間がわかる」(p.42)
  • (教養として)哲学を知れば、人とは何かがわかる(p.44)
  • (教養として)人間の非合理性を知ることで、真に合理的に行動し、決断できるようになる(p.47)
  • 教養がなければ魅力的な街を計画的に作ることはできない(p.49)

教養の修得には、自分の専門分野とまったく関係ない分野を学ぶこと(p.40)、本を沢山読むこと(p.41)などが有効だそうです。教師の背中はここでも重視されていますが、東工大・院生の「東工大の先生たちの持つ教養は?」という問いに、「いい質問ですねえ」と答えた池上さんには爆笑しました(p.89)。

ゴールの一つに「人間的品格」というわかりにくいものを挙げる斎藤さんの教養教育より、具体的なご利益をいろいろ挙げている池上さんの教養教育のほうがうけはいいのでしょう。しかし、教養の意義を見出すのは教養だと思うので、教える側が意義を考えている時点で教養教育ではなくなっているような気もします。とはいえ、池上さんの本の中には、私の教養の無さを思い知らされる話がたくさん載っていました。

学生に見せられる背中を持ちたいものです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です