ザ・ホワイトハウス 〈シーズン1-7〉 コンプリートDVD BOX(42枚組)

いつも言っていることですが、私が最初にイーガンに打ちのめされたのは「ルミナス」を読んだときです。それは『90年代SF傑作選・下』に収録されたもので、この短編集は他の作家のものも読めてお得ではありますが、「ルミナス」は『ひとりっ子』にも収録されているので、「イーガンだけでいい」というのであれば、こちらを手に取るのがいいでしょう。

「ルミナス」の続編「暗黒整数」が、短編集『プランク・ダイヴ』に収録されています。完成度という点では「ルミナス」に及ばない作品ですが(あれだけの傑作の続編ですから)、ちょっと面白いシーンがありました。

地球外(数学外?)知性体とのコミュニケーションについての人間の会話です。

「取りかえしのつかない真似をしないって信用できる政府がどこかにある? これを悪用しようとしないところが?」

(中略)

「なら募集広告を出せっていうのか?〈必須条件・数論に堪能、マキャヴェリを熟知、『ザ・ホワイトハウス』(七シーズン放送されたアメリカのテレビドラマ)の完全版ボックスセットを所有〉とか?」(p.106)

数論とマキャベリはいいとして、『ザ・ホワイトハウス』ってなんだよと思うわけです。これから長きにわたって読まれるであろうイーガンの作品に、テレビドラマなんていう時事的なものを入れていいのかと。それとも、いい意味でかどうかはともかく、ある程度長きにわたって観られるはずだという思いが、イーガン自身にあったのだろうかと。

後者もありえると思わせるものが、『ザ・ホワイトハウス』にはあります。それを確かめるためのマストアイテム、完全版ボックスセットが出ました。バラで買いそろえていた人の機嫌を損ねそうな価格で。

政治的にはかなりリベラルなドラマで、共和党支持者が楽しめるかどうかは疑問です。ドラマの中の大統領(バートレット)と、それを演じたマーティン・シーンの政治信条はかなり近いようで、最近も、Newsweek 2012年6/13号のインタビューでこんなことを言っていました。

聞き手:『ザ・ホワイトハウス』のファンとして聞きたいが、バートレット大統領なら今のアメリカの停滞ぶりをどう打開する?

シーン:オバマ大統領と同じ政策を取る。オバマは特権を乱用する富裕層に狙いを定めている。

言葉を探して知恵を振り絞る、大統領のためにスピーチを準備するシーンが特に好きです。